海外拠点でプルリクエスト数が3倍に。アンドパッドベトナムの定量×定性コミュニケーションを通じた開発生産性向上へのトライ

クラウド型の建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を提供する、株式会社アンドパッドの初の海外開発拠点アンドパッドベトナム。 エンジニア組織における個人の振り返りや組織の課題発見に、エンジニア組織支援クラウド「Findy Team+」をご活用いただいています。
今回は、アンドパッドベトナムで代表を務める野田さんと、同じくアンドパッドベトナムにてCTOを務める山下さんにインタビュー。現地でのエンジニア組織づくりについてや、「Findy Team+」の活用方法についてお話をうかがいました。
※本取り組みは、「Findy Team+ Award 2023」にて「Best Practice Award」を受賞しております。
目次
2022年1月、海外の開発拠点としてベトナムに法人を設立
――まず最初に、お二人のこれまでの簡単な経歴と現在の役割を教えてください。
野田:現在、アンドパッドベトナム代表を務めています。以前は、アンドパッドの営業部や社長室、新規プロジェクトの立ち上げなどに携わっていました。昨年1月ベトナムに法人ができ、そのタイミングからベトナムに赴任しています。
山下:僕は2016年からアンドパッドにジョインし、モバイルアプリの開発をはじめとして、バックエンドやフロントエンドなど、ひと通りの開発をしてきました。そして、昨年ベトナム拠点の立ち上げが始まってからは、その開発組織作り、ベトナム拠点とのプロダクト開発まわりに携わっています。
当初、ベトナム拠点にまだあまり人がいなかったころは、自分自身も一緒に開発しながら、チームをつくっていました。少しずつ開発から手を離していって、マネジメント寄りの立場になり、現在はアンドパッドベトナムのCTOをしています。
――現在のアンドパッドベトナムの体制を教えてください。
野田:立ち上げから1年以上が経ち、複数のプロダクト開発が同時進行で進んでいます。 チームの分け方としては、プロジェクトごとの軸が1つ。それから、QC/QAやモバイル、バックエンド、フロントエンドといった機能ごとの軸があります。横と縦の軸があるイメージですね。
――ホーチミンにオフィスがあるそうですが、出社に関するルールはどのようにされていますか?
野田:今はハイブリッドな体制をとっています。毎日出社しているメンバーもいれば、週に1回、月に1回のメンバーもいます。特に、必ず出社する日を決めたりもしていません。直接のコミュニケーションを好むところもあると感じており、金曜日はエンジニアの出社が多い印象があります。
――オフショア拠点にもいろいろな候補があると思いますが、なぜベトナムでの立ち上げを選んだのでしょうか?
野田:開発拠点立ち上げという観点だけであれば様々な候補があったと思いますが、建設業とのシナジーという観点も含めベトナムに決定しました。建築・建設業界には、BIM(Building Information Modeling)と呼ばれるモデリング手法があります。簡単に言うと、建物をコンピューター上で、形状や属性を持たせる形で3次元で表現することができます。設計時、施工時、完成後などの建物のライフサイクルにあった形で活用することが可能になります。
このBIMは、アメリカやシンガポール、カナダ、イギリスなど、世界で多く導入されていて、BIMモデリング作成のオフショア先としてベトナムが活用されています。アンドパッドとしては、日本でもBIMがもっと広がる支援ができればと考えていて、BIMを現場で活用できるプロダクトもリリースしています。なので、そういったビジネス的な観点が背景にあります。
山下:結果論ではありますが、ベトナムの人たちは日本人と感覚が近い印象がありますね。オフショアであまり良くない経験を持っている人の話も聞くので、やる前は漠然とした不安があったのですが、実際にやってみると、文化的にも性格的にも真面目な人が多い印象です。それほど日本人と変わらないなという感じがあって、そのあたりのギャップの少なさが良いなと思います。
――立ち上げ時のチームづくりにおいて、難しかった部分があれば教えてください。
山下:自分も一緒にプロジェクトに入りながら進めていたので、初期段階からチームメンバーの能力などもよく見えていました。なので、日本人と一緒にやっているのとあまり変わらなかったですね。
ただ、面接の段階で正確にジャッジするのは難しく、なかにはマッチしなかったり、スキルが見極められなかったりするケースもあり、そこは大変でした。これに関しては、今でも難しい部分かもしれません。
定量面では、チームのプルリクエスト数とレビュー数をチェック
――続いて、ベトナムチームのミッションについてお聞きしたいと思います。
山下:建築・建設業界にプロダクトで貢献するという根底の部分は、日本もベトナムも違いはありません。ただ、拠点を立ち上げるからには、日本の拠点よりもアウトプットが出ている状況に持っていきたい。なので、ベトナムのメンバーには、日本の拠点を超えようという熱量を持ってもらいたいと考えています。
――進め方としては、ベトナムのみで作るプロダクトがあるのでしょうか。それとも、日本で作っているプロダクトの一部機能をベトナムで作っているのでしょうか?
山下:両方あります。ベトナムだけで進めるプロジェクトもいくつかありますし、日本とハイブリッドで進めることにもトライしています。ただ、やはりハイブリッドにするとコミュニケーションコストがかかるので、その点で負荷が高くなりやすいですね。
――ブリッジSEの方がいらっしゃるとのことでしたが、それでもやはり一定の負荷はあると。
山下:そうですね。ドキュメントは基本的に日本語なので、伝言ゲームになってしまって、上手く伝わっていないとか、伝わっていないように感じるとか、そういったところはお互いにあるように感じます。
ただ、一部のプロジェクトでは、ベトナムと日本のエンジニア同士が直接英語で会話したり、日本のPMの方が英語で直接伝えることにトライしていたりと、いろいろな工夫もされています。
――チームのKPIとして追っているものがあれば教えてください。
山下:定量的には、プルリクエストの数やレビューの数を追っています。昨年、チームで上手くタスクが振られておらず、待ちの状態が生まれてしまっていた時期があったので、最初はそうした状況をなくす目的で見始めました。それ以降も毎月動きを追って、明らかにプルリクエスト数やレビュー数が減っていたら、ヒアリングするようにしています。
逆に、すごく頑張ってくれているメンバーもいるので、そういうアウトプットを出しているメンバーを称賛することにも活かしています。ただ、定量的な部分を追っていると、質より量が大事だと思ってしまう人が、一定数出てくるところが難しいですね。
もちろん質も量も両方大事なのですが、質の部分は定量的に追いにくい。定性的な部分については、まわりの人から評価をもらうようにしたり、もともとプルリクエストの粒度も大きかったので、どのようなプルリクエストだと質が高いのかを共有したりして、現時点ではバランスを取っています。
チームの根底にある、日本側の開発に対するリスペクト
――生産性を可視化して、プルリクエストの粒度を小さくしていくような考え方について、ベトナムのエンジニアの方々はどのように捉えていますか?
山下:最初は伝えても、意味がわからないという顔をしていましたね(笑)。ベトナムでは、大きなフィーチャーブランチを作って、言われた機能をマージして完了というケースが多いようです。レビューしやすいようにプルリクエストを分ける文化もないので、ほとんどのメンバーが他の会社で経験してきていません。
ですが、やってもらうように伝えれば、徐々に浸透していきます。彼らも日本側での開発に関する情報をインプットしていて、優れている点を全力で吸収しようとしてくれている部分もあると思いますね。なので、日本側がしっかり開発していることも大事な要素です。
野田:それはすごく大きいですね。ベトナム拠点に携わっていると、みんな日本のメンバーが作るソースコードを見て、リスペクトを持っていることを感じます。
山下:リスペクトできる部分が日本側にあるから、「こうやったらもっと良くなる」というところを学んでくれています。
――さまざまなハードルから、海外での開発拠点の立ち上げに踏み出せない企業も多いと思いますが、実際に取り組まれてみてどう感じていますか?
山下:ひたすら採用してプロジェクトに放り込んでいくようなやり方では、失敗しそうだなと思います。一緒にやりながら、ちゃんとレベル感が上がってきたかを確認しつつ、人を入れていくことができれば、それほど難しいことではないように感じます。
――日本側とのコミュニケーションに、「Findy Team+」を活用されている場面があれば教えてください。
野田:アウトプットの総量という観点で、1人当たりのプルリクエスト数とレビュー数を「Findy Team+」の詳細比較で、アンドパッド全体とベトナム全体を並べて見ています。直近半年でいうと、ベトナムの方が数字が出ている状況ですね。
この図 1 と 図 2 を、月1の会議で見せています。会議にはCEOの稲田、CFOの荻野、山下、私の4人が出席していて、アウトプットや経営に関してなどさまざまな話が上がりますが、そのなかの1つの項目として扱っています。
図 1 アンドパッド全体 図 2 ベトナム全体
「Findy Team+」の活用を始め、プルリクエスト数は約3倍に
――開発生産性の可視化に関して、「Findy Team+」を導入する前は別の方法で見られていましたか?
山下:GitHubのAPIは使っていましたが、使いにくくてだんだん使わなくなりました。自分はツールがなくても、ワークしているかどうかプルリクエストを見にいくこともできるのですが、全体を通して見るにはツールで数値化された方がわかりやすいなと思います。
――「Findy Team+」は、ベトナム拠点に行く前からお使いいただいていましたか?
山下:日本側でもたまに見ていましたが、本格的に使い始めたのは、ベトナム拠点の立ち上げからですね。ベトナムでは当初から、「Findy Team+」で数字を見ているということを、メンバーに対して伝えていたことも大きいです。
――計測のゴールとしては、チームが継続的に開発できているかを見ていただいているイメージでしょうか?
山下:そうですね。やはり文化や言葉が違うので、数字以外で伝えようとするとミスコミュニケーションが生まれる可能性が高くなります。実際には、ベトナムのメンバーとそういったミスコミュニケーションが起きたことはあまりないですが、毎月改善されているかどうかを数字で議論できた方が、お互いにとって良いと考えています。
あまり細かく比較しすぎるのも良くないですが、例えば月のプルリクエスト数が1~2だったら、何か起こっているだろうなとわかります。状況によっては、調査系のタスクが多いケースもあるので、見方が難しいところもあるのですが。
合わせて、日本チームへのヒアリングも月1で実施して、定性的な状況を聞くようにしています。なので、定量と定性の両方で、例えば日本側から動きが良くないと評価を受けていて、かつ数字も出ていないとなれば、対応が必要だと判断できるような形になっています。
――計測することに対するネガティブな反応はありましたか?
山下:人によっては、多少あるかもしれないですね。量と質の問題で、計測するとどうしても量の話が多くなります。なので、量ばかりを見ていると、焦ってプルリクエストを作るから質が悪くなるのではないか、といった意見が出ることもあります。
でも、わかりやすいから量のことを言っているだけで、質も量も両方見ていると都度説明していて、それが理解してもらえないということはないですね。量に意識が傾いてきたときに、質についての意見が出てくることは、考えとしてずれていないので、むしろいいことだと思います。
――「Findy Team+」でベトナムの数字を見てみると、リードタイム(折れ線グラフ)が延びることなく、2022年夏ごろと比べてプルリクエスト数(棒グラフ)が約3倍に増えていることがわかります。
図 3 プルリクエスト数とマージまでのリードタイム
山下:年明けくらいから数字を見ていることを伝え始めたので、そのあたりから動き的に変わった部分がありますね。リーダーがベストプラクティスをつくってくれて、例えば大きすぎるプルリクエストはレビューしやすいように分けようとか。そういった形で、ベトナムのメンバーが自主的に改善に向けて動いてくれました。
それから、プルリクエスト数が少なすぎると、動きが見えにくくなってしまうので、1日1個くらい作ってほしいと伝えています。例えば月に4個だと、週に1回くらいしか接点がなくなってしまい、チーム開発がしにくくなるためです。
――山下さんがよく見られている「Findy Team+」のページがあれば教えてください。
山下:チームコンディション(図 4 )をよく見ています。特に今はインドの新卒メンバーもトレーニングで入れているので、このページでベトナムチームにインドのメンバーを加えた内容を見ています。
図 4 チーム内のアクティビティ
文化的な背景によらず、数字で齟齬なく伝えられることがメリット
――開発生産性を計測することによるベネフィットは、どういった部分で感じられていますか?
山下:やはり文化的な背景に影響されず、数字で伝えられるところが一番じゃないでしょうか。グローバルだと、定性的なコミュニケーションは受け取り方がそれぞれに変わってしまいますが、数字はわかりやすく伝わるので、そこがすごく大きいと思います。
――開発生産性の可視化による、メンバーの意識や行動の変化はいかがですか?
山下:可視化によって、チームメンバーそれぞれが周りを意識して活動するようになったと思います。特にプルリクエスト数は、手を動かさないと出ないものなので。アウトプットを意識するという感覚が生まれたことは、チームに影響を与えたと思います。
――可視化にあたって、ツールにコストがかかる部分もありますが、そのあたりはいかがでしたか?
山下:「Findy Team+」は、それほど学習コストがかかるようなツールではないので、そういったところは特に問題ないですね。
野田:むしろ、逆に「Findy Team+」がなかったら、大きなコストがかかっていたかもしれません。社内でたくさんのヒアリングが必要だったり、説明のためにあれこれ文章を作らなければならなかったり、そういうことが起きていたかもしれないなと思います。
――今後の取り組みとして、可視化していきたい部分などはありますか?
山下:Four Keysは、取り組もうとしたことがあるのですが、なかなか数字を集めていくのが大変で、今のところできていません。理想としては、Four Keysで言われているような内容が、全部取れた方がいいのかなとはっ
品質面の可視化も、できればやりたいですね。デプロイして障害がどれくらい発生したかなど、数値化できたら質が測れると思うので、やっていきたいとは考えています。
――野田さん、山下さん、ありがとうございました!
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※「Findy Team+」のサービス詳細は、以下よりご覧いただけます。 https://findy-team.io/service_introduction